186: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:22:01 ID:ph.fi.L1
曙改二のお祝い…としては少し出遅れたが、
元乗員の財田三男少尉の書いた手記を紹介さしてくれ。
艦これwikiの曙の項目にも一部エピソードが紹介されてるけど、
曙戦友会「あけぼの会」が発行してた『駆逐艦曙便り』に寄せられた一文で、
なんというか、描かれる駆逐艦曙の雰囲気がいかにも曙らしくて好きなのよね。

とりあえず原文が手書きで読みづらいので第一部を書き起こしてみた。
適当に投下していくので、適宜読んでもらえれば。なお※は私の補足コメント。
no title

198: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:22:58 ID:BN.gl.L10
>>186
凄いな
ちょっとゆっくり読ませてもらう

230: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:25:24 ID:yy.g7.L19
>>186
・・・正規な軍のはずなのに愚連隊若しくは「シーマ艦隊」を思い出した

202: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:23:16 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」―亡き戦友とその御遺族に捧ぐ―

1.昭和19年9月5日 初対面の日
若い予備少尉を乗せたイモムシ(駆逐艦の内火艇のアダ名)は曙に近づいた。
曙は思いのほか大きく見えた。緊張する。作業中の下士官兵が一斉にジロジロと無遠慮に見下ろす。

艦に第一歩をしるす。誰も敬礼しない。オヤオヤと思う。
リンカーンヒゲ、コールマンヒゲ、黄門ヒゲなどの怖いような男たちが睨みつける。
「小せえ野郎だな」
「まだガキじゃねえか」
わざと聞こえよがしに言う。腹が立つというより大変な所に来たと思った。

翌朝は雨であった。一人で分隊居住区に入った。
ぎっしりと詰まっている。誰も敬礼しない。
ガヤガヤ騒いでいるのを「シーシーシー」と下士官が制した。
「こんど着任した分隊士である。何もわからん予備少尉である。
皆と死ぬまで一所懸命やる。よろしく頼む。」
と言って出た。このあと分隊長に連れられて再び入り正式に挨拶した。

※初対面でクソ提督とわめく誰かさんのようなとっつきにくさ。

221: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:24:38 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」

2.
「分隊士は何年で任官ですか」
「6ヶ月ほどだ」
「へぇー、それじゃ何もわからんでしょう」
「何もわからん」
「そらそうだろう、わかってたまるかい。あっしらこの曙が出来た時から乗ってるんで」
「でもね、あっしらの顔だけは潰さないでくださいよ。喧嘩の仲裁の時なんかサ」
「その代わり仕事はサ、あっしらに任せときなせえ。決して面を汚しませんよ」
「このあいだの挨拶が気に入ったぜ、キザでなくて良かったサ」
「さあ、まずお茶を一杯」

ぐーっと口に入れたら酒だった。皆が笑った。

「イケるんでしょう、飲みねえ飲みねえ」
第一分隊の主な古い5~6名の下士官たちであった。
机上射撃訓練だと偽った彼らの内密の招待であった。吐いては飲み飲んでは吐いた。

※曙は昭和6年生まれなので彼らは曙勤務一筋実に13年、もはや艦と同化してるレベル。
 そんな超古参たちからしたら6ヶ月任官の学徒出陣少尉はお話にならない若造である。
 でもしっかり歓迎するし上官の体面を汚さないようフォローもする。艦風がよくわかる。

243: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:26:13 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」

3.
よく気が利く従兵長が軍帽を出せという。
どうするのかと尋ねると「いい格好にしてあげます」と笑う。
真新しい軍帽を渡した。

「ハイ出来ました」
受け取ってみると、なんと芯は抜かれて「へ」の字型に曲がり、
しかも油を混じえた海水に漬けられて金ピカの桜と錨はドス黒くなっていた。

目を丸くしていると、
「これで一人前の駆逐艦曙の士官ですよ」
と彼は得意気に言った。

なるほど艦長以下各士官の軍帽はおよそそのようなものばかりであった。

※水雷屋といえば長年海水と油にさらされたバンカラな格好がトレードマーク。
曙みたいな年季の入った駆逐艦で新品ピカピカの格好をしてるとかえってダサいのである。

302: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:29:18 ID:HU.az.L1
>>243
あぁ上京したての田舎っ子みたいなもんかw

306: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:29:22 ID:6N.az.L24
>>243
なんかつっけんどんだけど面倒見いいな

311: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:29:38 ID:Q0.um.L17
>>243
ダメージジーンズかな?

275: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:27:56 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」

4.
停泊中の当直にはヒマな時があった。
ぶらりと分隊居住区に入ると、
「あら分隊士、当直ですか、ご苦労さんのこって。
おい誰か烹炊所へ行って何か美味いもんをギンバイしてこい。うちの坊やがまた腹を空かせてやってきたから」
と古い下士官が若い水兵さんに命ずる。
「いや別に……」
「いいってことよ、まあ一服しなさいよ」

すぐ何かが運ばれる。

「分隊士のような田舎っぺいには、こんな上等舶来物の値打ちなんか分かんないだろうがね。
このコーヒーセットはロンドンで、このベートーヴェンのレコードはベルリンで。これはパリーで……」
昔の遠洋航海の名残の逸品ばかりであった。何かほの温い郷愁が薫っていた。


※無論、曙が遠洋航海に行ったわけではない。戦前の遠洋練習艦隊の下士官兵は海軍中から選抜される。
 成績優秀品行方正な者、加えて記念試合を申し込まれる都合で柔道・剣道・相撲の五~六段クラスの猛者たちも選ばれて乗っていた。
 戦前からずっと海軍にいて戦争末期にまだ下士官ということは、おそらく後者の猛者枠の様子。
※相変わらず口は悪いが面倒見はいい。

323: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:29:57 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」

5.
艦長犬塚家孝少佐が朝歯ブラシを使いながら甲板に出てこられると、下士官たちは
「艦長、オース、今朝は早いですね」
と敬礼もしないで挨拶する。
艦長も「オース」と答えられる。他の上官たちにも大概こうであった。

旅順(基礎教育)や横須賀砲術学校で受けた厳しい躾教育が全く異国のものと錯覚されそうな、
一見乱暴なこの曙の生活が、日一日とたまらない暖かいものと変わっていった。
目を瞠る、新しい血肉の通う教育であった。

※一見言動乱暴態度粗野だけど、そこに暖かな親愛の情がこもってる……なんというか実にぼの

346: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:31:02 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」
6.
この猛者連中も上陸前夜になるとまるで遠足に出かける童児のように一変した。
鼻歌まじりで散髪したりヒゲを剃ったり服や靴を丹念に手入れしたり、
はしゃぎ回ってなかなか寝ようとはしなかった。

7.
上陸点検は若い副直将校の重要な仕事の一つであり、また見せ場でもあった。
定められた内容や順序形式があって間違うと艦橋から当直将校に怒鳴られた。
他の分隊員もいることだし、分隊の名誉に関することでもあった。

たまたまその日が来た。整列前に、正装した部下の兵曹がひそかに
「入湯上陸の命令注意事項などはわかっていますか」と心配そうに尋ねる。
「わかっている」「じゃ、やってみなさい」と脇に連れてゆく。
「ただ今より半舷入湯上陸が許される。注意事項を達する。休め!一つ……」
「そうそうその通り、『許す』じゃなく『許される』ですよ。落ち着いてね」

ミスなくやれた。
「終わり。上陸かかれ!」
上陸員は子供のように歓声をあげて出てゆく。
大艦なら許されないことだが曙ではいつもこのように開放的であった。
心配してくれていた先の下士官が駆け寄ってきてぐっと手を握りしめ
「うまく出来ました、よかったよかった、ほんとによかった」と目をうるませた。
「ありがとう」と強く握り返す。グッと熱いものがこみ上げてくる。
「では早く……」と手を放す。
「じゃ行ってきます。おみやげは何がいいですかね」
「何もいらん、楽しくやってこい」
振りかえり振りかえりニコニコと手を振って出ていった。
我が第一分隊機銃班先任下士の村田令介上曹であった。

※「上陸許可するのは艦長であって副直将校のオメーじゃねえ」ということ、こういうところは結構厳格。

373: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:32:43 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」
8.
前部士官室(駆逐艦にはガンルームがなかった)の若い士官は
後部士官室の先輩の准士官たちに上陸を譲るのが伝統のエチケットであった。
彼らにはほとんど妻子があった。上陸前の彼らのはしゃぎぶりは下士官兵に勝るとも劣らなかった。
いい人たちばかりであった。先輩ぶらず皆親切であった。
殊に同じ分隊の猪狩幸市掌砲長とは一番親しくしてもらった。
謹直で有能有識の人で分隊士として為すべき仕事は殆ど快く代行してくれた。
よく共に飲んだ。大の愛妻家で酔えば熱いおのろけを聞かされた。
鎌田貞助掌水雷長は11月5日の戦闘のとき爆風で海に飛ばされ、数日後に救助され帰艦したが、
彼はずーっとこのことを切歯扼腕して自責した。「不可抗力だから」との我々の慰めを聞こうとはしなかった。
彼がのちの11月13日、消火に飛び出し重傷を負ったのもこの強い闘魂と尊い責任感のせいであろう。

若い士官たちはそんなに上陸したくなかった。上官の留守の間にのんびりと羽根をのばしている方がよかった。
飲み食いには十分恵まれていた。ただ風呂と畳が恋しかった。

※これだけ責任感が強い古参乗員が揃ってたからこそ、曙は昭和19年まで生き延びたのだろう。
※大抵の艦の青年士官は上陸を待ち望むものだけど、曙はよっぽど居心地の良い艦だったらしい。

403: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:34:08 ID:NA.jk.L1
>>373
爆風で海まで放り出されてから数日よく生き延びてたもんだなあ……

410: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:34:21 ID:yb.um.L30
>>373
雰囲気になじめれば良いけど、なじめないと地獄のような環境だろうなぁ

394: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:33:49 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」
9.
風呂といえばめったになかった。たまにあっても順番が来るのは深夜過ぎであった。
「起きてください、バスです」と従兵さんが小声で体を揺する。
「いやだ、眠い」
「いいえ駄目です。今夜入らないと次はいつのことか分かりませんよ、さあさあ」と起こされる。
まず湯をかける。固く絞ったタオルを丸めてゴシゴシと下から上へこすり上げる。
ボロボロと垢が落ちる。そのあと石鹸で軽く洗い流す。たちまち体が軽快になる。
みな従兵さんが汗だくになってやってくれる。自分がするのはあそこだけ。
雨は下士官兵には待望快適のバスであった。

※前章で風呂を恋しがってる割には眠気に負けている。
※従兵のつとめとはいえこの世話女房ぶりである。

427: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:35:27 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」
10.
柱島での戦闘訓練は燃料節約のために停船したままで、すべて「何ノットで航行中」という想定の下で行われた。
訓練は猛烈厳格を極めた。皆必死に耐えた。

※動かず訓練してるので、潮の発射した迷走魚雷が突っ込んできても逃げられず突き刺さるなんて事故が起きたりもしていた

11.
工廠から出張してくる工員たちには手を焼いた。仕事をするより物品を欲しがった。
怒ればなお仕事をしない。
上官からは厳しい督促を受けるし、いらいらまごまごするだけ。
人間の出来た下士官たちがうまく工員をとりなして作業の進捗を図ってくれた。
「心配しなさんな」の言葉通り作業は無事完了した。
「任しときなせえ」と言った彼ら、我が下士官兵は、忠実にその約束を果たしてくれたのである。

※明石と違って、工廠工員の態度は最低最悪だったというのは五月雨乗員の手記にもある通り。

438: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:36:14 ID:7d.um.L21
>>427
なんで艦は動かない訓練で魚雷は撃っちゃうのよ(困惑)

446: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:36:32 ID:zl.kx.L9
>>438
うしおちゃんはそういうことする

481: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:38:33 ID:NA.jk.L1
>>446
「潮、魚雷撃ちます……えーい!」

464: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:37:49 ID:NA.jk.L1
>>427
工廠工員と上官かあ こういう板挟みの苦労はどこにでもあるんやなw

447: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:36:35 ID:ph.fi.L1
「駆逐艦曙の思い出」第一部は以上であります。

実はこの後に出撃~曙戦没までを綴った第二部も掲載されていて、
たとえばスリガオ海峡突入を前に
「分隊士、大丈夫ですか、怖いんでしょう」「なになに、貴様こそ」
と割と余裕たっぷりのやりとりしてたり興味深いが、
かなりの長編で書き起こせてないのでとりあえずここまで。
流れぶった切ってすまなんだ。

454: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:36:56 ID:yb.um.L30
>>447

面白かった

460: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:37:23 ID:NL.en.L13
>>447
おつあり面白かった
こういう当時の雰囲気って見てて楽しいなあ

483: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:38:41 ID:6N.az.L24
>>447
不思議とぼのの性格と合ってて驚いた

503: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:39:15 ID:RQ.e9.L15
>>447
おつ

515: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:39:37 ID:HU.az.L1
>>447
おいっす、お疲れ

521: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:39:45 ID:iC.la.L17
>>447
まだ第一部なのか

591: 名無しさん@おーぷん 21/03/07(日)20:43:12 ID:NA.jk.L1
>>447
おつおつ
スレ覗いたときちょうど8からだったので遡って読んだけれども
興味深い内容でした


4番の面倒見の良いエピソードは曙ちゃんに通じそうなところありますねw

引用元:https://uni.open2ch.net/test/read.cgi/gameswf/1615114606/